広陵 文春有料記事で判明「こめかみ付近を蹴られ右半身不全に」10年前の暴力と隠蔽の新証言

広陵高校野球部で発生した衝撃的な暴力事件。

10年前の体験を新証言者が語ったことで、強豪校の伝統とされてきた“上下関係”や“指導”の名のもとで繰り返されてきた深刻な人権侵害の姿が、文春有料記事でいま明るみに出ました。

なぜこんな悲劇が、しかも長年にわたり繰り返されてきたのか――。そのリアルな経緯と、組織ぐるみの隠蔽、被害者や家族が直面した苦しみを、ここで詳しくたどります。

 

「こめかみ付近を蹴られて」――新証言が語る壮絶な現実

広陵高校

2025年1月、広陵高校野球部寮で、1年生部員が上級生から集団暴力を受ける事件が発生しました。

「10人以上」に囲まれ、蹴られ、殴られ、「死ぬかと思った」との証言が週刊文春など複数メディアで報じられたこの事件は、2015年頃にも同様の体罰が横行していたこと、高校側による問題隠蔽が日常的に行われていたことなど、部内文化そのものに強い疑念を投げかけました。

 

上級生からの激しい集団暴行

2015年春、甲子園でも実績を誇る広陵高校に入部したAさん(仮名)。最初の数か月、1年生は“指導”と称して日常的な暴力にさらされていました。

Aさんが上級生から激しい集団暴行を受けたのは、3年生が引退し、新チームが始動して間もない同年9月18日のことだったといいます。

ある先輩から別の先輩への嫌がらせの指示を『できません』と答えると、その先輩から『なんや、歯向かうんか?』、『あとで部室に来い』と言われ、部室にいくと消灯して真っ暗な室内に3、4人の2年生が待ち受けていたという。

部屋の中央で正座させられ、手を後ろに回して抵抗できない姿勢になるよう命じられ、集団暴行が始まり何度も蹴ったり殴ったり、中にはスパイクを履いていた先輩も。顔はなるべく避けていたようだが、蹴りの一発がこめかみ付近に命中し、意識を失ったといいます。

目が覚めた時、Aさんは県立広島病院のベッドの上で、体の右半身が思うように動かせない。

右手は上下させることができるが、握ることができなかった。右足は全く動かず、右半身が痺れて動かない症状、右半身不全

「病院に搬送されたことを理解して、真っ先に頭をよぎったのは『しばかれて病院送りになったことが表沙汰になったらどうしよう』という不安でした。野球部に迷惑をかけてしまうのではないかと。次に思い浮かんだのは『そのせいでまた先輩にやられるのかな』ということでした」
週刊文春より

 

中井監督が告げた“信じがたい言葉”

広陵―中井監督

病室には監督の中井氏も訪ねてきたが、身を案ずる言葉などなく、開口一番、監督が発したのは

「お前は部室の扉で挟んだんやってな。何をどんくさいことしとるんや」
「それで合ってるよな?」

と追認を求める言葉だった。

Aさんは必死で「いえ、違います。●●さんにやられました」と事実を訴えた。

しかし

「監督は『違うやろ。部室の扉は重たいし、お前はどんくさいから、自分で挟んだんやろ』

と認めてくれない。

監督に逆らえる立場ではなく

『そうでした……。僕がどんくさかったからです』

と主張を変えると

『そうやのう。分かった。お前の口からそう聞いたから、そういうことで処理しとく』

と満足げに話し、病室を去ったといいます。

Aさんに対する陰湿な集団暴行は“隠蔽”され、本人の不注意による怪我として処理されたという。

幸いにも、Aさんの右半身麻痺は一時的な症状で済み、しばらくは車椅子の生活になったものの、リハビリを経て回復に向かっていったが中井氏は

「右が動かんとか、全部嘘やったんやろ。大ごとにしたかっただけやろ。お前は何がしたいんじゃ」
「そんなすぐに治るわけないやろ。全部嘘や」

信じてくれず、心は折れてしまい、何もかもが信用できなくなったといいます。

 

野球部の頂点に君臨する中井氏の言い分は、“家族”たる他の部員たちにも伝播。

先輩からは

『しょうもない怪我しやがって』とか『右が動かんとか、どうせ嘘やろ』

と言われ、同級生たちまで

『お前がそんなだから先輩に室内練習場でボコボコにされたわ』
『右が動かんて嘘やろ』

と言うようになった。

 

その頃、Aさんは家族宛にこんなSOSの手紙を送っている。

〈覚悟を決めて行ったんやけど、こんな生活もう無理やわ〉

〈野球のためにこんな辛い思いするんやったら、野球なんかもういいわ〉

家族への手紙

 

ふたたび集団暴行の標的に

そして2016年1月31日。状況はよくなるどころか、Aさんは再び寮内で集団暴行の被害に。

同級生たちから呼び出され、先輩に暴行された部室の時と同じように、部屋の中で正座させられ、蹴られたり殴られたり……。この件は高野連に報告され、広陵は対外試合禁止処分を受けた。

広陵―集団暴行痕

広陵―暴行痣

高野連を傘下に持つ⽇本学⽣野球協会の発表を遡ると、広陵は「寮内で1年生同士の暴力があった」として、同年2月3日から「対外試合禁止1カ月」の処分を受けている。

「部室での暴行は隠蔽されたのに、寮での暴行は処分対象になった。その違いが全く分かりません。ただ、後者が処分を受ける事案ならば、前者も本来は高野連に報告し、何らかの処分が下されるべき事案じゃないですか。それなのに、監督が率先して隠蔽に走ったことが、僕には納得できませんでした」
週刊文春より

同年2月、広陵野球部での生活に耐えかねたAさんは、別の高校へ転校を決断したのである。Aさんを庇い、謹慎処分を受けていた他の2人も広陵を去った。

 

時の広陵を知る教員が証言する。

「Aくんの入院は部室のドアに挟まれた事故として学校に報告されており、退院後に本人から聞くまで、真相を知りませんでした。野球部内でAくんに対するイジメがあったのは事実だと思います。ある時、Aくんの体に痣を見つけて写真を撮ろうとしたら、野球部のコーチに『撮らんでええ』と止められたことがありました。Aくんと同時期に転校した2人も同様に部内で辛い目に遭っていたようで、この3人は、監督の指示で、全部員から悪いところを指摘されたそうです。野球部と監督の中井先生は、学校の広告塔でもあり、特別な存在。周囲がモノを言える雰囲気ではありませんでした」
週刊文春より

広陵はAさんが打ち明けた最初の暴行事案については真っ向から否定したものの、部内暴力を機に転校を余儀なくされた顛末は、現在、被害を訴えている元部員Bくんのケースと全く同じ。

今回発覚した暴力事案は特別なケースではなく、むしろ長年にわたって部暴力が常態化していた可能性を示唆しています。

さらに、広陵側が否定したAさんに対する中井氏の「隠蔽誘導」も、今夏の震源となったBくんに関する告発内容と流れが酷似している。元部員の保護者のものとされるSNS投稿には、こんなくだりが紹介されています。

監督「高野連に報告した方がいいんか?」

息子「はい」

監督「2年生の対外試合なくなってもいいんか?」

息子「、、、ダメだと思います」

監督「じゃあどうすんや」

息子「、、、出さない方がいいと思います」

 

「暴力の伝統とそれを隠蔽する中井監督——という構図が、自分が経験したのと同じかたちで現在まで残っていたことがすごく悲しかった。高校球界で結果を残してきた監督に異議を唱える大人がいない現状も世の中に知ってもらいたいです。暴力に耐えて強くなるなんて絶対におかしい。暴力の連鎖を助長し、放置しているのは中井監督です。これを機に広陵野球部は変わるべきです」

とAさんは語っています

 

なぜ集団暴力が“常態化”していたのか

この背景には、上下関係絶対主義・勝利至上主義という“特殊な伝統”があります。

先輩が下級生を「指導」するという美名のもとで、「出来が悪い」「態度が悪い」といった曖昧な理由で一方的に殴る蹴るといった暴力が繰り返されていました。

一部上級生の暴力は2年生を使った間接的“私刑”の形も採られ、被害者は「なぜ自分だけが」と答えも得られぬまま、

「耐える者が偉い」「嫌なら辞めろ」という空気の中でひたすら沈黙させられていたのです。

 

学校・監督の“隠蔽”工作、その実態

広陵野球部グランド

事件発覚後、学校サイドの対応はどうだったのでしょうか。

公式見解では「2015年秋、A氏が野球部室のドアで頭を打ったという事故」だったとし、「集団暴行は確認していない」という説明が繰り返されました。

外部トレーナーとともに救護対応は行ったものの、「暴力」そのものへの認定や調査は消極的。文春の取材に「部内集団暴力の事実はない」とあくまで組織防衛に終始する対応が目立ちました。

しかしAさん自身や関係者は

「なぜ倒れたのかは本人しか分からない。しかし暴力があったことは事実。複数回訴えても“証拠不十分”として封じられた」

と語っています。

さらに部内でも

「みんな分かっていたが誰も学校には逆らえなかった」

との声も。告発した部員や家族に対して学校側が圧力や無視を加えたという記録も寄せられています。

 

二次被害――被害者への孤立と圧力

こうした事件の被害者やその家族は「部の名誉」「学校イメージ」のために声を上げにくくされ、時には「裏切り者」扱いで孤立やバッシングも受けました。

保護者の証言では、事件後、息子は心身のショックで日常生活にすら支障が出るようになり、

「加害者ではなく被害者が転校した」という“理不尽な結末”

につながりました。

 

第三者委員会や警察の調査、そして“世論”の批判

2025年、同様の事件が再び発覚すると家族・元部員やSNS上からも新証言や記録が噴出。

告発が公になると警察は被害届を受理し、広島県第三者委員会が調査を開始。内部だけではなく、外部有識者による検証が求められる事態となりました。

SNSでは

「これは偶然ではない」
「甲子園出場云々より暴力を見逃す組織体制が根深い」

といった厳しい声が続き、かつての美化された部活イメージに疑問の声が噴出しています。

 

10年続く“変わらぬ体質”――伝統か悪習か

広陵ユニホーム

なぜ、こうした暴力と隠蔽の構造が10年も続いたのか。

背景には

「勝利こそ至上」「組織の名誉を守れ」

という共通認識が根づき、たとえ深刻な後遺症を負っても被害者が“泣き寝入り”する雰囲気、あるいは組織ぐるみの口止めや情報統制があったようです。

新証言がきっかけで過去の事件や手法も再検証され、部活の“伝統”がいかに有害な習慣となりうるか、社会全体で問われています。

 

今後求められる改革と支援

この事件を教訓とし、

「第三者が関わる徹底調査」
「被害者と告発者へのサポート体制強化」
「勝利至上主義から安全・人権重視指導へ」

が急務とされています。

学校・指導者・保護者・OBの一人ひとりが「何に目をつぶり、何を守るべきか」を見直す必要があるでしょう。

 

おわりに――声がつながるとき、真の改革が動き出す

「こめかみ付近を蹴られ右半身不全に」。この被害は決して個人の不運や一過性の事件ではありません。

部活動や教育現場が組織全体で変わらなければ、同じ悲劇が繰り返されるだけです。今度こそ、“真実”を無視せず、声を挙げた一人ひとりに応える社会――その一歩を、みんなで踏み出していきましょう。

※本記事は週刊文春電子版(有料)で報じられた証言、関係者の証言、報道各種をもとに構成しています。

 

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